大嫌いの先にあるもの
それにしても、この状況は蛇の生殺しだな。触れている場所からは春音の生ぬるい体温と柔らかさが伝わってくるし、甘い匂いもするし、寝顔は無防備過ぎる。

ちょっと開いている薄ピンク色の唇も目に毒だ。僕以外の男だったら、本能的にその唇を唇で塞ぎたくなるだろう。

他の男の前ではこんな無謀な姿、晒すんじゃないぞ。
ツンと、人差し指で春音の頬をついた。

「う……ん」

半開きになった唇から吐息のような声が漏れた。
思った以上にそれが艶っぽくて、胸を突かれた。

唇から目が離せなくなる。ぽってりとしたやや厚めの唇はキスをしたら気持ち良さそうだ。

自分の思考にハッとした。
いくら魅力的だからって、春音相手になんて事を考えているんだ。美香の妹だぞ。妹同然の子なんだぞ。

こんな事を考えてしまうのはまだ酔っている証拠だな。
それに春音の胸に抱きしめられているこの態勢がいけないんだ。脱出しなければ。

起こしてしまうかもしれないが、春音の胸の上からベッドに移動しよう。
えいっと、頭を抜いて、春音の右側のベッドの上に仰向けになった。

「うーん」という春音の声がして、ドキッとした。
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