大嫌いの先にあるもの
さりげなく寝返りを打ち、春音に背を向けた。

「どこ?」

眠そうな春音の声がした。

一瞬だが、キスしたいなんて考えたから、顔を合わせるのは気まずい。
目を閉じてやり過ごす事にした。

「黒須……?」

ベッド越しに春音が起き上がった気配を感じるが、寝たふりを続ける。
きっと春音はすぐに出て行くだろう。僕は気持ち悪いって思われる程、嫌われているから。

「そっか。黒須と帰って、それで、なんか眠くなって一緒に寝ちゃったんだ」

春音が確認するように呟いた。

「黒須でも酔っ払うんだね」

思い出したように春音が笑った。

兄として情けない姿を見せていないといいが、今夜は自信がない。

「私に気持ち悪いって言われて本当に傷ついたの?」

頬に視線を感じる。

もしかして、寝たふりをしている事に気づいているのか?

「そんな事、全然思ってないよ。それどころか私は……」

うん?背中に頭の感触……?

頭を押しつけられているような……。

薄く目を開けると、胸の前には細い腕がまわって来ている。

これって、後ろから抱きしめられているのか?

「好きだよ。黒須」

えっ……。
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