大嫌いの先にあるもの
どこかで『Lullaby of Birdland』の音楽が流れている。ああ、スマホが鳴っているのか。

目を閉じたまま腕を伸ばしサイドテーブル辺りを探ると、スマホのひんやりとした感触があった。いつも通りの場所にあった。

もう朝か……。アラームを止め、時間を見ると6時になっていた。

頭が痛い。これは二日酔いのやつだな。きっとバーで飲み過ぎたんだ。
寝ぼけた頭でベッドから起き上がり、寝室を出た。

キッチンに行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。一晩中喉が渇いて仕方がなかった。やっと水が飲めた。

それにしても、昨夜は物凄く悩ましい夢を見た気がする。ずっと夢の中で答えの出ない問題を考えていた。しかし、それがどんな問題だったのか覚えていない。

きっと大した問題ではない。忘れてしまうぐらいなんだから。

リビングのソファに腰を下ろそうとして、ドキリとした。
春音がソファで丸まって寝ている。

昨日引っ越して来たんだった。

全くこんな所で何もかけずに寝て。風邪でもひいたらどうするんだ。
やっぱりベッドは必要だな。昨日見た家具をすぐに取り寄せよう。

とりあえず春音を僕のベッドに移すか。

それにしても無防備な寝顔だな。
笑ってしまうぐらい可愛い顔をして寝ている。

こんな姿、僕以外の男の前では晒すなよ。
人差し指でツンと春音の頬を突いた瞬間、昨夜同じ事をしたような気がした。

昨夜……。

――好きだよ、黒須。

頭の中で春音の声が再生された。
その瞬間、胸が高鳴り、体中に電流が走ったような感覚に襲われる。ドクドクと打つ鼓動も早くなる。

これは……いけない。春音に感じてはいけない気持ちだ。

慌てて春音から離れた。
バスルームに駆け込んで、頭から冷たいシャワーを浴びた。

今、感じた気持ちを追い出さなければ。
取り返しのつかない事になる前に忘れなければ。

もうこれ以上、何も考えるな。
春音は妹だ。ただそれだけだ。
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