大嫌いの先にあるもの
キス
黒須と同居して一週間が経った。
家賃はいらないと言われたが、タダで住まわせてもらう訳には行かないと押し切り、家賃の代わりに家事を引き受けた。
しかし、あまりやる事はない。
掃除は業者の人が週三日来てやっているし、洗濯は乾燥機付きの洗濯機で終わっちゃうし、黒須のスーツ類はクリーニング屋さんに出すからワイシャツのアイロンがけもない。
頑張り所は食事だけど、料理はあまり得意じゃない。
朝ご飯に卵焼きを作ったら、形が崩れてスクランブルエッグになるし、味噌汁を作ったら味噌を入れ過ぎてしょっぱくなるし、焼きそばを作ったらキャベツは焦げ焦げになるし……はっきり言って黒須に迷惑をかけまくっている。
自炊はしていたつもりだったけど、それは炊飯器でご飯を炊いて、卵かけご飯とか、納豆ご飯を作るぐらいだったので、料理の腕は実家を出た頃からあまり変わっていない。
私よりも一人暮らし歴が長い黒須の方が全然料理上手だ。
だから自然と黒須の方がキッチンに立っている。
簡単な物だと言いながら、昨日のお昼に作ってくれたほうれん草とベーコンのクリームパスタは絶品だった。
せめてお皿ぐらい洗おうと思うけど、食器洗浄機が仕事をしてくれるので、ほとんどやる事がない。
家事に手間をかけないシステムが出来上がっているので、私は完全に役立たずの居候だ。
そんな私に呆れているのか、実は一緒に暮らしてから、黒須がよそよそしくなった気がするのだ。
「オーナーがよそよそしくなったって?」
隣に立つ宮本さんが眉間に皺を寄せた。