大嫌いの先にあるもの
今夜もBlue&Devilでバイトをしていた。夏休みは週5でシフトを組んでもらっている。

「なんか、黒須と目が合うとすぐに逸らされるし、家にはあまりいないし」

宮本さんがふーんと相槌を打った。

「そういえば春音ちゃんがいる時間帯、オーナーをカウンターで見かけなくなったかも」

「やっぱりそうなんですか」

バーで黒須を見かけなくなったのは気のせいだと思っていたけど、避けられているんだ。

でも、なんで?
何かやらかしたっけ?

もしかして、引っ越した日のヨレヨレTシャツに赤ジャージという酷い姿とか、せっかく着飾ったのにインテリアショップで転んだ事とかがいけなかった?

「ひょっとして春音ちゃんの発言を気にしてるのかもな」

宮本さんがじっとこっちを見た。

「私の発言?」

「一週間前にさ、オーナーに気持ち悪いとかって言ってなかった?」

あっ……言った。

「あれは宮本さんが黒須を父親みたいって言うから」

「だって完全に娘を溺愛している父親みたいだったから」

宮本さんが苦く笑った。

「オーナーきっと、かなり凹んだんじゃない?あの後、普段よりも早いペースで飲んでいたし、ウィスキーのボトルも一本空けてたし。普段はあんな風に深酒するような人じゃないよ。これ以上春音ちゃんに嫌われないように距離を取っているんじゃないかな」

なるほど。そういう理由だったのか。
黒須が私なんかの言葉を気にしているなんて意外。

「オーナーはかなり春音ちゃんの事を気にかけているしね」

「黒須が?」

宮本さんがニンマリと笑った。

「何ですか、その笑みは?」
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