大嫌いの先にあるもの
「ここからは俺の勘だけど、オーナー、バーに来れない時は防犯カメラ、チェックしてるんじゃないかな」

「まさか、そんな」

「春音ちゃん、ちょっとだけ我慢して」

宮本さんにいきなり抱きしめられた。正確には抱きしめるふりだった。ギリギリの所で宮本さんの手は私の体に触れていない。だけど、カメラ越しには抱きしめているように見えそうだ。

「春音ちゃん、カメラに向かって助けてのサイン出して」

宮本さんが小声で囁いた。

そうか。そういう事か。防犯カメラをチェックしていたら、黒須はきっと来てくれる。

教えてもらった助けてのサインは開いた片手に親指を中に入れてグーを作る。
それを何度かカメラに向かって繰り返した。

「そろそろかな」

耳元で宮本さんが言った。

「離れるんだ」

黒須の声がした。

カウンターの方を見ると、スマホを握りしめ、息を切らしたワイシャツ黒ベスト姿の黒須が立っていた。

来てくれた。防犯カメラを見ていたんだ。しかも肩で息をする程、必死に走って来てくれた。こんな黒須、見た事ない。
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