大嫌いの先にあるもの
気づくと夜8時を過ぎていた。いつの間にか夕焼け空から、イルミネーションが輝く夜の景色になっていた。今夜も黒須の部屋からは赤く輝く東京タワーがよく見える。

頬を撫でる生ぬるい風を感じながら、バルコニーからビル街を眺めていた。
今日は本当に疲れた。引っ越しの作業も大変だったけど、それ以上に疲れる出来事があった。

まさかあんな場面を目撃するなんて……。

研究室で引っ越しの作業をしていたら、先生に言われた通りに来客があった。背の高い男性で、差し入れもくれて、引っ越しも手伝ってくれたいい人だった。

そして、その人と鈴原先生が濃厚なキスをしている所を見てしまった。

まだ脳裏に残っている。
鈴原先生のいつもと違う、色っぽい表情と、力強く先生を抱きしめるその人を。そして深く重なる唇……。

まさにディープキスだった。
ファーストキスさえまだな私には刺激が強すぎた。

もうその後は何がなんだかって感じで、先生と二人きりで引っ越しの作業をするのが本当に気まずかった。

恋人だって教えてもらったけど、先生は確か結婚していたはず。
だとしたら……不倫?

尊敬する鈴原先生をそんな目で見たくない。
考えたくないのに考えてしまう。明日も先生に会うのに。

「もう、いやだ」
「何が嫌なんだ?」

後ろを見ると、ワイシャツ姿の黒須が立っていた。
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