大嫌いの先にあるもの
「フランス映画ってどこにありますか?」

レジから離れ、DVDをパッケージに戻す作業をしていると、背中から声がかかった。

顔を見なくてもわかる。耳の奥を撫でまわすような柔らかくて、低い声で話すのは黒須しかいない。

振り向くと黒須が笑みを浮かべた。

「こちらになります」

DVDを抱えたまま旧作洋画コーナーの方に向かった。
黒須が後をついてくる。
 
防犯カメラの死角になる場所にたどり着くと、立ち止まって彼を見上げた。周囲には誰もいない。

「なんで私につきまとうの?」

溜め込んだ怒りをぶつけた。
黒須の顔から笑みが消える。

「たまたまこの店に来た訳じゃないでしょ?近所って訳じゃないし」

入会用紙に書かれた住所はこの店から遠い場所だった。

「この店は君の友達に教えてもらったんだ」

昨夜のジャズバーでの事が過る。
若菜とゆかを残して帰るんじゃなかった。

「大学でもバイト先でも迷惑なんです。私に構わないで下さい」

黒須がニヤリと笑った。

「何ですか?」
「そんなに僕が嫌いか?」
「嫌いです」
「だったらどうして昨夜、引き返したんだ?」

思いがけない言葉に心が大きく揺れた。
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