大嫌いの先にあるもの
春音の隣に腰を下ろして、一緒にビールを飲んだ。よく冷えていて美味しいビールだった。

しかし、今夜の春音はご機嫌ななめのようで、ずっとむっつりした表情を浮かべている。

また何か春音の地雷を踏んだのか?
それともただ単に疲れているからそう見えるのか?

春音から漂うピリピリとした空気を和ませたくて冗談を口にするが、逆効果のようで、また怒らせた。

怒った春音が立ち上がった時、何かに躓いて、こっちに転んで来た。
春音は向き合う形で僕の膝の上に座った。

春音の怯えたような大きな目と合った瞬間、つい腕が伸びた。
抱きしめるとバニラのような甘い匂いがした。物凄く落ち着く匂い。

ずっと抱きしめていたい。

春音が可愛くて堪らない。

子どもじゃないんだからって抗議した時の顔も、猫みたいだってからかった時の怒った春音の表情も愛しい。

春音は可愛い妹だ。血のつながりはないけど、実の妹のように思える。
そうか。これは兄として春音を愛しているって事なんだ。

春音に好きだと言われた日から、自分の気持ちがわからず悶々としていたが、今わかった。

「黒須、いじわるはもうやめて」

膝の上の春音が泣きそうな顔で見てくる。
そんな顔をされてはもっといじめたくなってしまう。

しかし、そろそろ降ろしてやるか。

春音を解放すると、逃げるように僕の膝から降りた。
そのままバルコニーを出て行くかと思ったら、元いた椅子に春音は座り、レジ袋の中から新しいビールを取り出した。

意外だった。まだ僕の隣にいるなんて。
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