大嫌いの先にあるもの
「私だって、軽いキスの一つぐらいじゃ顔を赤くしないわよ。DVDとかでそんなの見慣れているもん。それにもっと凄いのだって見てるんだから。DVD屋には大人のコーナーもあるんだからね。あの18禁の黒いカーテンの先は女性の裸だらけなんだから。しかもそういうシーンの映像だって流れていて、嫌でも目に入っちゃうんだから」

春音の口から18禁なんて言葉が出たのはショックだ。男女の事など知らないで欲しい。そう願うのは春音を子どもとして見ているからかもしれない。

「ふーん、そういうシーンを見ながら働いているのか」

「そうよ。女子高生物から熟女物まで見てるわよ。もう凄いんだから。お風呂の中でありえない格好でしてたり、普通の繁華街の路地裏でしていたりして」

ありえない格好に、路地裏……。一体春音は何を見ているんだ?

DVD屋は有害過ぎる。すぐに辞めさせたい。

「本当、みんな変態よね。ああいうのが好きなんだから」

春音は一気に手の中の缶ビールを飲み、次のビールに手を伸ばした。飲むペースが早くなっている。大丈夫だろうか。

「今日見たのは、そういうのを日常的に見ている私が動揺しちゃうぐらい凄いキスだったんだから。黒須が想像しているようなお子様キスじゃないんだから」

興奮しながら話している横顔が可愛い。

「黒須、聞いてる?」

春音の横顔を観察していたら、いきなりこっちを向いた。

「聞いてるよ」

「黒須もそのキスを見たら、絶対に動揺するんだからね」

オレンジ色の照明に当たっているせいか、春音の唇が普段の薄ピンク色よりも濃く見える。ぽってりとしたやや厚めの唇につい目がいってしまう。

不意に春音とキスしたいと思った事を思い出した。
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