大嫌いの先にあるもの
「ベッドに行こう」

僕の手を掴むといきなり春音が立ち上がった。

「えっ」

戸惑っていると、春音に寝室まで連れて行かれる。

「はい、ゴロン」

春音が気持ち良さそうに僕のベッドに横になった。

「黒須もゴロンしてよ」

春音がポンポンとベッドを叩いた。

このまま春音と一緒に寝て、朝起きた時に怒られないだろうか。
今の春音はどう見ても正気とは思えない。

いつだったか飲み過ぎてピアノの上で踊っていた事があったし……。あの次の日、春音は全くバーで暴れた事を覚えていなかった。

今夜もきっとそういう事になるのではないだろうか……。

「黒須、はやく」

春音が手を引っ張る。こんな風に春音が甘えてくるなんて普段では考えられない。可愛いな。

「黒須、はやく、はやく」

手足をバタバタさせる姿は子どもみたいだ。あまりにも可愛すぎて笑ってしまう。いつもはしっかり者で、少しも僕に頼ろうとしないから、こんな風に求めてくれるのは嬉しい。

「わかったよ。隣に寝ればいいのかい?」

「うん」

春音がご機嫌な様子で頷いた。
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