大嫌いの先にあるもの
「ねえ、黒須」

春音の隣に寝転がると早速話しかけられた。

「何だい?」

「ファーストキスっていくつの時だった?」

「唐突な話だな」

春音が笑った。

「教えて」

甘えるように見つめられて断れない。
遠い記憶を掘り起こした。

「そうだな。幼稚園生だったかな。同じひまわり組の女の子とかき氷を食べている時にした気がする」

「幼稚園生!えー早すぎる!」

春音が興奮したようにベッドの上で足をバタバタさせた。

「やっぱイケメンはそういうの早いんだね」

しみじみと言った春音の言葉がおかしい。

「幼稚園生の黒須もイケメンだったんだろうな。見てみたいな。写真とかないの?」

「実家にはあるかな」

「じゃあ、今から黒須の実家に行こう。黒須の実家ってどこ?」

春音がいきなり起き上がった。

「ニューヨークだよ」

「遠いよー!すぐに行けないじゃない」

春音が残念そうにベッドに横になった。

「でも、横浜のおばあちゃん家にあるかもな。幼稚園生の時はおばあちゃん家に住んでいたから」

「黒須のおばあちゃん、横浜に住んでるの?」

「そうだよ」

「いくつ?」

「80歳ぐらいだったかな。元気な人だよ」

「うちのおばあちゃんは70歳になるよ」

――あなたと結婚しなかったら、美香を喪う事はなかった。あなたはいきなりやって来て、私から大事な孫を奪ったのよ。もう二度と私たちの前に現れないでちょうだい。

美香と春音の祖母から言われた言葉が胸を過った。
もう近づくなと言われるぐらい嫌われている。
そんな僕が春音と一緒にいると知ったら、あの人をまた怒らせるだろうか。
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