大嫌いの先にあるもの
「黒須、眉間に皺」

春音が僕の額に触れた。

「何考えていたの?」
「別に」
「おばあちゃんの事?」

酔っているのに鋭い。

「違うよ」
「嘘が下手だね」

春音が寂しそうに笑った。

「私はもう黒須のせいだとは思っていないからね」

「何を?」

「美香ちゃんの事。おばあちゃんは黒須と結婚したのが不幸の始まりだったって言っていたけどさ」

不幸の始まりか。その通りかもしれない。胸が痛いな。
ため息が出た。

「私はおばあちゃんと違うよ。そんな風には思っていないから。美香ちゃんは黒須と一緒になって幸せだったと思う。だっていつも片思いばかりでいいって言っていた美香ちゃんがいきなり結婚だよ。しかもニューヨークで生活って、物凄く黒須の事が好きじゃないと出来ない事だよ。美香ちゃんは本当に黒須の事を愛していたんだよ。だからね。幸せな結婚生活だったと思うんだ」

春音がそんな風に僕たちの事を思っていてくれたなんて思わなかった。

目の奥が熱い。春音の言葉が嬉し過ぎて。

「ありがとう」
「どういたしまして」

にっこりと微笑んだ春音が愛しい。

「春音、抱きしめていいか?」

「えっ」

「いや、その、今の言葉が嬉しくて、春音を抱きしめたくなった」

春音が笑った。

「どうぞ」

春音が僕に寄ってくる。腕を伸ばして春音を胸に抱きしめた。
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