大嫌いの先にあるもの
「立花さん、どうか私の話を最後まで聞いて下さい」

相沢さんがティッシュBOXを取ってくれた。

ティッシュで涙を拭きながら頷いた。

「黒須と愛理が出会ったのはお姉さんが亡くなってから一ヶ月後ぐらいです。黒須は精神的に酷い状態で、毎晩のように美香さんがよく出ていたジャズバーで朝まで酒を飲んでたんです。そのバーで愛理と出会いました。そして自然と二人で朝まで一緒にいるような仲になったらしいです」

自然と朝まで一緒にいるような仲……。
そんな事聞きたくない。

「つまり愛理さんは黒須の恋人って事ですか?」

「いえ、そこまでは」

「じゃあ、体だけの関係ですか?朝まで一緒にいたという事はそういう事があったって事でしょう?」

「黒須からは愛理の隣で毎晩酔いつぶれていたとしか聞いてませんから、関係があったかどうかまでは」

相沢さんの答えが珍しくはっきりしない。

「じゃあ、この写真は何なんですか?抱き合ってキスしてるじゃないですか!相沢さんもこの状況は捏造されたものじゃないって思うんでしょ!」

「キス以上はないと思います。黒須は美香さん以外の女性を抱けませんから」

「なんでそう言い切れるんですか?」

「黒須が前に言っていたんです。その場限りの情事は出来ないって。美香さん以外の女性はダメだって」

「じゃあ、愛していなくてもキスまでは出来るんですね」

相沢さんが答えにくそうに頷いた。

今わかった。

昨夜のキスは黒須にとって何でもなかったんだ。

あれは愛情のないキスだったんだ。
< 238 / 360 >

この作品をシェア

pagetop