大嫌いの先にあるもの
「苦しいだなんて、そんな事、ある訳ない」

ドクターが息をついた。

「嘘ですね。黒須さんは自分の気持ちを誤魔化しています」
「そんな事は……」
「ここ一週間眠れないと言われましたが、春音さんが出て行ったのが一週間前という事ですか?」
「……そうです」
「眠れない原因は春音さんですか?」
「おそらく」
「なぜ春音さんは出て行ったのですか?」
「それは……春音の気持ちに応えられなかったんです。春音に好きだと言われました。13才の頃から僕に恋をしていると」

ドクターが驚いたように瞬きをした。

「黒須さんにとっては思いもよらなかった告白という事ですか?それとも、春音さんの気持ちに少しは気づいていましたか?」

苦しい質問に逃げ出したくなる。

「その前の晩にある事があって、春音の気持ちに気づきました」
「ある事とは?」

言いたくない。しかし、悶々とする気持ちの正体を知る為にはドクターのアドバイスが必要だ。

「春音とキスしたんです」

ドクターの栗色の瞳が大げさに見開いた。
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