大嫌いの先にあるもの
「わかりません。その先は考えられないというか」
「どうして?」
「考えちゃいけない気がして」

いきなりドクターが手を打った。

「そこです!」
「何がです?」
「黒須さんが今言った『考えちゃいけない気がして』という部分です。あなたは意識的に考える事を避けている。春音さんを妹以上に見てはいけないと、自分にブレーキをかけているんです」

思いもよらなかった。自分にブレーキをかけているなんて。

「僕はどうしたらいいんですか?」
ドクターが微笑んだ。

「簡単です。ブレーキを外せばいいんです」
「どうやって?」
「春音さんを妹だと意識せずに、ただの一人の女性として見て下さい」
「一人の女性……。しかし、それは抵抗があるというか」
「今、感じているその抵抗が心のブレーキになっているんです。おそらく奥様の言葉がブレーキになっているんでしょう。しかし、その言葉は忘れて下さい」

「忘れるなんてできません。美香の言葉は遺言みたいな物ですから」
「春音さんを傷つけても、奥様の遺言の方が大事ですか?」
「それは……」

「春音さんはあなたに妹以上に見られない事を辛いと思っていますよ。春音さんが大事なら逃げずに向き合って下さい」
「春音を一人の女性として見れば向き合う事になるんですか?」
ドクターがゆっくりと頷いた。

「そして、ご自分の本当の気持ちにも気づくと思います」
「僕の本当の気持ちって?」
「それは春音さんに会ってみればわかりますよ」
ドクターが微笑んだ。
ドクターには僕が春音に対してどんな気持ちを持っているのかわかっているようだった。
< 247 / 360 >

この作品をシェア

pagetop