大嫌いの先にあるもの
バーに駆け付けたのは電話から15分後だった。
店内は照明が落ちていて薄暗い。バーカウンターの客席の照明だけがついているが、人の気配がない。

ケンカをしているはずの春音と愛理も、宮本君の姿もない。
僕が駆けつける間に何らかの決着がついたんだろうか。

「宮本君、いるか?」
カウンターの中まで覗いてみるが誰もいない。
連絡しようと、スマホを取り出した時、出入口のドアが開いて、誰かが入って来た。

「相沢さん、あの立花です。こちらでいいんですか?」
顔は見えないが春音の声だ。
いきなりの春音に心臓がドキンッと鋭く鳴った。

咄嗟にカウンターの中に入り、しゃがんで身を隠した。
自分でもどうして隠れるような事をしているのかわからないが、急に顔を合わせる事が怖くなった。

「相沢さーん、どこですか?」
春音の声がこっちに近づいてくる。
相沢の名を呼んでいるという事は春音は相沢に呼び出されたという事か。
つまり、これは相沢と宮本君が仕組んだという事か。

2人とも余計な事を。

「相沢さん、制服返しに来たんですけど」
春音がカウンターの側まで来た。
このまま隠れてやり過ごすか、それとも覚悟を決めて春音の顔を見るか。

「相沢さん?カウンターの中で何やってるんですか?」
春音の声が頭の上でした。
気配を消したつもりだったが気づかれてしまったか。カッコ悪いな、この状況は。僕だとは思っていないみたいだが。

いきなり振り向くと、驚かせてしまいそうなので、とりあえず背を向けたままゆっくりと立ち上がった。
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