大嫌いの先にあるもの
霊園の前で黒須と一緒にタクシーを降りた。
結局は黒須に負けて、来てしまった。

著名人も多く眠る多磨霊園に立花家の墓があり、美香ちゃんは黒須から引き離されるようにそこで眠っている。

おばあちゃんが強く美香ちゃんの遺骨を引き取ると言った為だった。
黒須も承諾するしかなかったようだ。

広い霊園内を赤い薔薇の花束を持った黒須が先頭をきって歩く。子どもの頃から来ていた私でも、迷ってしまうぐらい広いのに、黒須は迷う事なく、歩いている。

多分、黒須は美香ちゃんに会いによく来ているんだ。
おばあちゃんに来るなと言われているはずなのに。

そういえば時々、赤い薔薇がお墓に供えられているとおばあちゃんに聞いた事がある。美香ちゃんの友達か、ファンかもしれないと話していたけど、黒須だったんだ……。

颯爽と歩く紺色のスーツの背中を見ながら胸が痛くなる。
今でも黒須の心にいるのはやっぱり美香ちゃんだけなんだ。

もう黒須は誰も好きにならないんだろうか。
一生美香ちゃんだけを想って生きていくんだろうか。

私を好きになってくれる事はないんだろうか。

「美香、来たよ」
お墓の前で立ち止まり、黒須がそう話しかけた。
優しい声だった。

あんな声で美香ちゃんと話すのか。
美香ちゃんが羨ましい。亡くなった後も黒須の心を独占出来て。

美香ちゃんと黒須の強い絆を見せつけられているようで、胸が締め付けられる。酷いよ、黒須。私の気持ちを知っているのに。

泣きそう。
もうここにはいられない。

「今日は報告があって春音と来たよ。美香、ごめん。君との約束を守れなくなったよ」

黒須に背を向けて、立ち去ろうとした時、意外な言葉が聞こえて来た。
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