大嫌いの先にあるもの
「本当に私の事が好きなの?」
もう一度、訊くと黒須が大きく頷いた。
やっぱり信じられない。だって黒須の心の中には美香ちゃんしかいないのに……。

でも、美香ちゃんのお墓の前でキスしてくれた。
抱きしめてもくれた。

という事は本当に私が好き?

っていうか私、黒須とキスして、抱きしめられたんだ。しかも今日は二回も……。

急に恥ずかしさが込みあがって来て、黒須の顔が見れなくなった。
鼓動がうるさい程、胸の内側で鳴っている。こんなにドキドキしているなんて、黒須に聞こえそうでさらに恥ずかしい。

「僕の気持ち、伝わった?」
黒須の低めでいて、凛々しい声が響いた。

「えーと、その」
下を向きながら、言うべき言葉を探すけど、恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱい過ぎて何も考えられない。

顔中どころか、首まで熱い。きっと今、真っ赤な顔している。こんな顔、黒須に見せられない。

「春音、なんで僕を見ない?」
こっちに向かって来るピカピカに磨かれた黒い革靴が見えた。
思わず後ずさると、さらに黒須が近づいてくる。

「いや、これ以上は来ないで」
両腕を前に出すと、指先が紺色の上着に触れた。びっくりして手を引っ込めようとしたら、黒須に両手を掴まれた。骨っぽい男らしい指を感じて、鼓動がさらに激しくなる。
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