大嫌いの先にあるもの
「そんなの決まっているだろ。キスしたいからしたんだ」
両手首を握っていた黒須の手が離れ、右手を掴まれた。
それから掴んだ右手を黒須が自分の胸に押し付けた。

「わかるか?」
私の右手を胸に押し付けたまま黒須がこっちを見た。

「何を?」
「春音にドキドキしているのが聞こえないか?僕の心臓はさっきから凄い勢いで鼓動を刻んでいる」
いきなりの告白にまた顔が熱くなった。
13才の時から恋焦がれてきた黒須にそんな事を言われるなんて嘘みたい。

「春音を想うと心臓がこうなるんだ」
硬い胸に触れている手の平からは少し早くなった黒須の鼓動が伝わってくる。本当に私にドキドキしているんだ。あの黒須が……。

「妹じゃなく、一人の女性として春音を想っているよ」
黒須の言葉が心臓に響いた。

嬉しさで胸が張り裂けそう。まさかこんな風に片思いが成就する日が来るとは思わなかった。ずっと黒須は好きになってはいけない人で、この想いは口にしてはいけないと思っていたのに……。

「く、黒須……」
名前を口にした途端、唇が震えた。熱い感情の塊が喉の奥まで込みあがって来て、涙が溢れた。

まだ夢を見ているみたい。叶わない恋だと思っていたのに、無理だと思っていたのに、まさか、こんな日が来るなんて……。
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