大嫌いの先にあるもの
「困ったな。もう着いてしまったよ」
京王線の調布駅の一つ手前、布田駅の地下ホームに降りと黒須が本当に困ったように口にした。

霊園を出た後は二人で電車に乗った。
向かった先は私の家の最寄り駅。本当は黒須の所に一緒に帰りたかったけど、おばあちゃんの目があるから、それは出来ない。

おばあちゃんはまだ黒須の事を許していない。美香ちゃんが死んだのは黒須のせいだと思っている。

おばあちゃんを説得しなければ、黒須とは暮らせないだろうな……。そんな事を考えてつい、ため息がこぼれた。

「やっぱり家まで送ろうか」
隣を歩く黒須が言った。

「ダめだよ。おばあちゃんがいるから」
黒須が階段の側で立ち止まり、短く息をついた。

「帰したくないよ」
「さっきから同じ事言ってる」
霊園を出てからずっと黒須に引き止められている。
そんな黒須がちょっと可愛い。

「離れがたいんだよ。やっと春音と……その……」
黒須が言いづらそうに耳の後ろをかいた。

「その、何?」
「何って、わかるだろ」
自分の気持ちを口にするのが苦手だと言っていたけど、こういう所が黒須はダメなのか。

「私の事、好きって事?」
「そうだよ。だから離れがたい」
きゃっ。なんて甘い言葉なんだろう。胸がうずうずする。
つないでいる手も、絡まっている指も、甘い。

「明日は会える?」
「明日は……」
お見合いだ。どうしよう。
お父さんの取引先の会社の社長……。さすがにドタキャンは出来ない。
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