大嫌いの先にあるもの
「なんだ春音?」
「結婚って何?聞いてないよ、私」
「ああ、そうか。ごめん、ごめん。お父さん、嬉しくてつい、話が飛んでしまった」

お父さんが陽気な声で笑った。

「奏太さんからさっきお返事があったんだよ。今日はとても楽しく過ごせましたって。これからも春音さんとお付き合いさせて下さいって」

これからもお付き合いって……。
私、ちゃんと付き合っている人がいるって最後に言ったのに、どういう事?

「お父さん、ちゃんとお受けしておいたぞ。春音も奏太さんを気に入っていますって」

はあ?お父さん、勝手に何言ってるの?

「お父さんはちゃんと春音の気持ちわかったぞ。奏太さんに会った時から素敵な人だと思っていたんだろ?恥ずかしそうにずっと俯いていたし」

それは、お母さんの話が嫌で、下を向いていただけで……。

忘れていた。お父さんは思い込みが強い所があるんだった。

「奏太さんには春音の携帯の番号教えておいたから。じゃあ、おやすみ」
「ちょっと、お父さん……」

電話は切れていた。

ため息をつき、隣を見ると長い足を組んだ黒須がこっちを見ていた。それから考えるように顎に手をあてる。

「お父さん、結婚……。そうか、そういう事か」

黒須がわかったように呟いた。

「お見合いを断ったと言っていたが、嘘だったんだな」

黒須が確認するようにこっちを見た。

「……はい。そうです」

頷くしかなかった。
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