大嫌いの先にあるもの
黒須が肺の奥が空っぽになる程の盛大なため息をつき、困ったように腕を組んだ。

「黒須、ごめんなさい」

ソファから降りて、床に正座した。
同じ場所に座っている資格がない気がして。

自分の不甲斐なさが身に沁みる。最初からハッキリとお父さんにお見合いの事は断れば良かった。今日は行くんじゃなかった……。

昔から優しくしてくれるお父さんには遠慮して本当の事が言いづらかった。そんなダメな私が今日は出ていた。

「本当にごめんなさい。黒須に心配かけたくなくて、だから内緒でお見合いに行って、断ってこようと思ったの」

「結婚って言葉が聞こえたけど、断られるどころか気に入られてしまったんじゃないのか?」

「……うん」
「どうするの?」
「もちろん断る」
「断れるの?」
「ちゃんと断るよ!」
「出来なかったから、こんな事態になったんじゃないのか?」

黒須の指摘が正しくて言葉に詰まる。

黒須が短く息をつき、ソファから降りて、私の前で膝をついた。
それから右手が伸びた。頬を叩かれる。そう思って身構えると、右手は私の頭をポンポンといつものように撫でた。

視線を向けると、黒須が弱々しく微笑んだ。
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