大嫌いの先にあるもの
講義が終わると、黒須の周りは相変わらず女子学生たちでいっぱいになる。今日はほとんどガイダンスで講義の内容があまりなかったのに。

熱心に質問する事柄があるとは思えない。

「黒須先生、モテモテだね」
若菜が笑いながら言った。

「夏休み明けだもんね。みんな先生が恋しかったんじゃない。ねえ、私たちも質問しに行こうよ」
ゆかにそう言われ、腕を掴まれた。

「えっ、私はいいよ」
「春音はいつもそうじゃない。本当は先生の事、好きなくせに」
ゆかの言葉にドキッ。

「な、何言ってんの。好きな訳ないじゃない」
「春音ってそういう所、素直じゃないよね。偶には素直になろう」
ゆかに引っ張られた。
あっという間に教壇の黒須の前まで連れていかれる。

「黒須先生、質問がありまーす」
ゆかが黒須の前までいくと、話しかけた。
髪の長い女子学生と話していた黒須がゆっくりとこっちを向いた。

視線が合った瞬間、昨夜の黒須が浮かんで気まずくなる。
すぐに視線を逸らして、ゆかの背中に隠れた。

「質問って何かな?」
ゆかの方に首を向けた黒須が優しい声で訊ねた。
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