大嫌いの先にあるもの
「先生はいつもお昼、お蕎麦屋さんで食べてるんですか。どおりで学食で姿を見ないと思ったら」
 黒須の話に若菜が相槌を打った。

「学食は落ち着かなくてね」
「わかります。みんな先生に関心がありますからね」
若菜の言葉に黒須が困ったような笑みを浮かべた。

「僕は大学の中でそんなに目立つんだろうか?ある学生に僕と一緒にいると目立つから迷惑だって言われた事があるんだよ」

あっ、それって私が言った事だ。
思わず首を左に向けると、黒須は涼しげな表情で若菜たちの方に視線を向けている。

「その学生って男子学生ですか?」
ゆかが質問した。

「女子だよ」
黒須が答えた。

「えー、先生にそんな事を言う子がいるんですかー」
若菜とゆかの声が揃った。

「そうなんだよ。その子と付き合うのは難しくて」
黒須がクスッと笑った。なんかバカにされた気がしてムッとする。

「先生は目立つと思いますよ。気づいてないんですか?大学中の女子が先生に興味を持っているのを」
ついそんな言葉が出た。

「大学中の女子って事は君もかな?」
黒須がこっちを向いて微笑んだ。
視線が合って、カーッと顔が熱くなる。

「わ、私は……その……」
黒須の意地悪。誰よりも黒須に興味があるって知っているくせに。

「その何?」
「ですから、えーと、さっき講義で言っていたCSRとCSVの違いがよくわからなかったのですが、先生教えて下さい」
黒須が驚いたように瞬きをした。

「急に話が飛んだね」
「こちらが本題ですから」
「それもそうか」
黒須がクスクスと笑った。
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