大嫌いの先にあるもの
「CSRもCSVも企業が社会貢献に取り組んでいるかという事を表す言葉なんだけど、両者の違いはね、CSRの方は本業のついでに慈善事業に取り組むという感じで、CSVの方は本業として利益をあげながら社会貢献に取り組むっていう事になるんだ。つまりね……」

丁寧な黒須の解説が始まり、教室で講義を受けているような雰囲気になった。専門的な難しい用語も私たちにわかるようにかみ砕いて教えてくれる。

淀みなく出てくる言葉はさすがだ。
これだけの知識を黒須はどうやって身に着けたのだろう。

話を聞きながら、尊敬の気持ちが強くなる。こんなに凄い人が私の事を好きでいてくれるなんて、やっぱり嘘みたい。

黒須は私のどこを好きになったんだろう。

「という事です。質問はありますか?」

説明が終わると、再び黒須と視線が合った。

「あ、ありません」「先生は結婚しているんですか?」

私の声と重なるようにゆかの声がした。

黒須がゆかの方を見る。

「個人的な質問ですね」
「ダメですか?」
「まあ、いいでしょう。今は独身ですが、結婚はした事ありますよ」
「離婚されたという事ですか?」

若菜がすぐに切り返した。

「それはご想像にお任せします」

黒須がクスリと笑った。

「では今、恋人はいますか?」

ゆかが再び質問した。

「恋人ですか」

黒須が私の方を見て微笑んだ。

まさか黒須、私の事を言うつもり?
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