大嫌いの先にあるもの
「す、好きな人なんて、いませんよ」

あたふたとして答えると、黒須がニヤリと笑った。

「本当にいないんですか?」
「いませんよ」
「春音が好きなのは多分、黒須先生ですよ」

ゆかがいきなり口を挟んで来た。

黒須の目が驚いたようにゆかの方に向いた。

きゃーやめてー!
これ以上は余計な話をしないでー!

「だって春音、講義の時いつも熱心に先生を見ているし、黒須先生の話をしていると、興味がなさそうなふりをしながらもしっかり先生の話を聞いているし……」

ゆかの言葉に耳の中まで熱くなっていく。
きっと今、顔中真っ赤だ。
黒須に聞かれるなんて恥ずかし過ぎる。

「わ、私、きょ、教務課に用があったんだ」

居たたまれなくて席を立った。

「じゃあ、あの、さよなら」

リュックを掴んで、逃げるようにカフェを出た。
カフェから出ると全力で走った。できるだけ人のいない方に向かった。

ゆか酷いよ。よりにもよって黒須の前であんな事話すなんて……。

黒須に知られてしまった。
嫌いだと言いながらも、講義中も熱心に黒須を見ていた事を。

ゆかと若菜が黒須の話をしていると何を話しているのか、いつも気になった。

ずっと黒須に恋していたんだもの。しょうがないじゃない。
もうやだ。なんでこんなに惨めな気持ちになるんだろう。

黒須はどう思っただろう?ひいたかな?それとも気持ち悪いって思ったかな……。

穴があったら入りたい。
恥ずかしくて死んじゃいそう。

走っていると、いきなり後ろから腕を強く引っ張られた。その反動で眼鏡が落ちた。

一体何?
後ろを向くと、息を切らした黒須がこっちを見ていた。
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