大嫌いの先にあるもの
「恋人になったらセックスもしなきゃいけないのかな?」

私の発言にテーブルの向こう側の若菜とゆかが、ビールジョッキを置いて目を丸くした。
アルコールのせいでつい心の声が出てしまった。

失言を取り繕う為にタッチパネルを手に取り、「次は何飲む?」なんて明るい声で聞いてみるけど、2人はじっとこっちを見たまま三度、瞬きをした。

「春音ちゃん、何があったの?」

若菜が口にした。

「春音、彼氏出来たの?」

ゆかも続いて聞いて来た。
2人の言葉に苦笑が浮かんだ。

三人だけの楽しい飲み会が、自らの失言のせいで追及の場になってしまった。

午後の講義が終わったら飲みに行こうと誘ってくれたのはゆかだった。それで、私たちは大学がある最寄り駅の駅前の居酒屋で午後6時から飲み始めていた。

「私の話なんかいいよ。つまんないから。そうだ若菜、カナダどうだった?一ヶ月行っていたんでしょ?」

若菜がじっとこっちを見てから微笑んだ。

「春音ちゃん、口にした事はちゃんと話した方がいいよ。ゆかもカナダの話より春音ちゃんの話が気になってるし」

若菜に振られて、ゆかが目をキラキラと輝かせた。

「うん、聞きたい。春音から恋愛の悩みが出るなんて初めてだもん。今の発言はどういう事なの?その前に、付き合っている人いるの?」

この話題にこんなに食いつかれるとは思わなかった。
追及をかわすのは難しそうだし、この際、話を聞いてもらうか。

ジョッキに半分残っていたビールを一気に飲み、三杯目の黒ビールをタッチパネルで注文してから話し始めた。
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