大嫌いの先にあるもの
黒須の名は出さずに、両想いになって三日目の恋人がいる事を打ち明けると、若菜とゆかはさらに驚いたよう目を見開いた。

「春音、おめでとう」

ゆかが嬉しそうに言った。

「おめでとう。春音ちゃん、良かったね」

若菜が優しく微笑んでくれる。

おめでとうって言われる事なんだと、初めて実感した。

「実は春音ちゃんの雰囲気が変わったってゆかと話していたんだよね。彼氏でも出来たんじゃないかと思っていたけど、本当にそうだったんだ」

自分では何も変わっていない気がしていたけど、そう思われていたんだ。

「そうそう。春音、伊達眼鏡してないしね」

三杯目のビールを飲みながら、ゆかが笑った。

「眼鏡は壊れちゃったから」

大学で黒須に腕を引っ張られた時に眼鏡が落ちて、フレームが折れてしまった。さすがにそんな状態でかける訳にはいかず、眼鏡をかける事は諦めた。

「やっぱり春音は綺麗な顔立ちをしているね。美人なんだから素顔のままの方がいいと思うよ」

ゆかが言ってくれた。

「美人じゃないよ」
「春音ちゃん、そうやって否定するのよくないと思うよ」

若菜が諭すように言った。

「まあまあ、若菜。それより今日は黒須先生の前では余計な事言っちゃってごめんね」

ゆかがしんみりとした表情を浮かべた。

「ほんの冗談のつもりで言ったんだけど、春音が泣きそうな顔をしていたからヒヤリとしたよ。わたし、デリカシーない所あるから」

ゆかが申し訳なさそうに人差し指で頬をかいた。

「ゆかって偶に冗談が過ぎる所あるもんね」

若菜が運ばれて来たばかりのカシスオレンジを飲みながら言った。

「本当、反省しています」

ゆかが頭を下げた。

「いいよ。そんなに謝らないで」
「あの後、黒須先生が追いかけて行ったみたいだけど、会ったの?」

若菜がこっちを見た。
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