大嫌いの先にあるもの
それは間違いなく、昨日登録した春音の番号からかかって来た電話だった。

一年前に大学で春音に話しかけられた時に、ダメもとでこちらの番号を渡した事があったが、かけて来る事があるとは……。

「出ないんですか?」

スマホを凝視していると、宮本君に突っ込まれる。
そうだ。出ないと……。

通話ボタンをタップしようとした所で、電話が切れた。

あ。

せっかくかかって来たのに。

今かけ直せば出てくれるかもしれない。

ここでは少々、音楽がうるさいのでスマホを持って店の外に出た。

エレベーターホールまで出て、通話しようとしたタイミングでまた春音から電話がかかってくる。

二度もかけてくるなんて、何かあったんだろうか。

今度はすぐに通話ボタンをタップした。

「もしもし」
「圭介さん?」

親しかった頃のように名前で呼ばれる。
嬉しさに口元が緩んだ。

春音との関係はもしかしたらもう修復できてるのかも。
期待にウキウキしてくる。

「春音、どうした?」
「死んで。圭介さんがいると目障りだから」

容赦のない言葉に期待値がガツンと下がる。
やっぱりまだ春音に憎まれてる。

「いきなりだな。そんなに僕が嫌いか?」
「嫌い。大嫌い」

春音が強い調子で言った。
昔はこんな事を言うような子じゃなかった。

いつもニコニコしてて、可愛い子だったのに。
どこですれ違ってしまったのか。

春音との関係を修復する事はやはり無理なんだろうか。

「私の美香ちゃんを返してよ。それが無理なら死んでよ」
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