大嫌いの先にあるもの
「黒須先生……いや、会ってないけど」

嘘はつきたくなかったけど、黒須に抱きしめられた事を思い出したら会ったとは言えなくなった。

「なんだ。春音ちゃんを追いかけて行ったんじゃないのか。春音ちゃんの後に慌てた様子で出て行ったから、先生が春音ちゃんを心配して追いかけたのかと思った」

若菜の言葉に黒須の姿が浮かんで、申し訳なさでいっぱいになる。
きっと心配して追いかけてくれたんだ。なのに私は研究室に行かなかった。黒須と2人きりになるのがやっぱり怖くて。

「だから言ったでしょ。そこまで黒須先生がするはずないって。やっぱりあの後、私が春音を追いかければ良かった」

ゆかが不満そうな表情で若菜を見る。

ゆかも心配して追いかけてくれようとしていたんだ。それを若菜が止めたって事か。

「だって邪魔になる気がしたんだもの。それにゆかがまた失言をするかもしれないし。まあ、いいじゃない。こうやって謝る場を作る事が出来たんだから。改めて仲直りのカンパーイ!」

若菜がカシオレのグラスを掲げ、私とゆかはビールジョッキを持ち、三人で再び乾杯をした。

「で、両想いになった彼に肉体関係を迫られてるの?」

ゴクリとビールを飲むと、ゆかに聞かれた。
質問のタイミングが良過ぎて、ビールに咽る。

「春音ちゃん、大丈夫?」

若菜が心配そうにまだ誰も手をつけていない、水の入ったグラスを置いてくれた。

「うんっ、なんとか」

水を飲んで落ち着いた。

「ゆかが変なタイミングで聞くから」

若菜が肘でゆかをつっつく。

「だって、気になるじゃん」

2人のやりとりが可笑しい。つい笑ってしまう。
若菜とゆかにだったらこの悩み、打ち明けてもいいよね。
< 300 / 360 >

この作品をシェア

pagetop