大嫌いの先にあるもの
「若菜、ここお店だから」

ゆかが止めてくれた。

「じゃあ、トイレ行く?個室だったらいいよね?」

若菜の発言に戸惑う。

「いや、あの、そこまでしなくても大丈夫だから」
「何が大丈夫なの?」

若菜が心配そうにこっちを見つめる。

「痣の事があって彼と先に進めないんでしょ?春音ちゃんの言う通り、何度もそういう事、拒んでいたら心が離れちゃうよ」

若菜の言葉にドキッとする。

よく考えてみると、昨日から黒須に対して不誠実な事ばかりしている。嘘ついてお見合いに行くし、お見合いしている所を目撃されるし、お父さんと連絡つかなくて、まだお見合いもちゃんと断われていないし……。

「一層の事、彼に痣を見てもらえば?」

ゆかの提案に心臓が大きく脈打った。

「確かにそれが一番いいかも」

若菜が頷いた。

「えー、無理、無理。絶対に見られたくない」

黒須にこんな醜い物、見せたくない。

「どうして?」

若菜に聞かれた。

「だって……」
「嫌われるから?」

ゆかが私の言葉を続けるように言った。

「そうだよ。嫌われたら嫌だよ。やっと両想いになったんだから」
「春音ちゃんが好きになった人は春音ちゃんに痣があるだけで嫌いになるような薄情な人なの?」

若菜の言葉にハッとした。

「一番大事な事はさ、好きな相手に自分をさらけ出せるかどうかだと思うよ。表面だけ取り繕っているような関係はすぐに終わるよ。本当に好きだったら、どんな事でも受け入れられるはずだよ」

ゆかの言葉に若菜がうんうんと頷いた。

「ゆかにしてはいい事言ったね。春音ちゃんはもっと相手を信じて、自分をさらけ出した方がいいよ。がんばれ!」

若菜がそう言って、気合を入れるように私の背中を叩いた。

2人の話を聞いていたら、少しだけ勇気が湧いてくる。

これから黒須に会いに行こう。
研究室に行かなかった事も直接、謝りたいし。
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