大嫌いの先にあるもの
「ミスター・クロス?」

赤毛のふくよかな女性が玄関ドアから顔を覗かせた。
どこかジャニスに面影がある気がする。

「初めまして。日本から電話した黒須です」

叔母さんが歓迎するように微笑んだ。

「本当に来たのね。どうぞ中へ」
「お邪魔します」

リビングに通されると、オレンジ色の2人掛けのソファを勧められ、腰を下ろした。白いテーブルの上にはメイクアップについての本が開いた状態で置かれていた。きっと今まで読んでいたものなんだろう。

そういえばメイクの仕事をしていると、電話で聞いた事を思い出した。
よく見ると、スーツケースがリビングの隅に置かれていた。旅準備をしていた所だったのかもしれない。

「お忙しい所、突然すみません」

紅茶を出してくれた叔母さんを見ながら言った。

「私もあなたに会ってみたかったのよ。ミスター・クロス。ジャニスから美香の話を聞いていたの。それで美香のご主人は物凄いイケメンだって聞いていたけど、本当ね」

クスクスと楽し気な笑い声を叔母さんが立てたながら、ヘーゼル色の瞳をこっちに向けた。

「ジャニスとは一度しか会っていないのですが、そんな事を言っていたんですか」
「優しくてカッコイイ旦那さんがいて美香は幸せ者だって言っていたわよ」
「ありがとうございます。それでジャニスさんの事を聞かせて頂きたいのですが」
「何が聞きたいの?」
「ジャニスさんの幼なじみの事をご存じですか?」

大河内さんの報告書にはジャニスの幼なじみが事件の鍵であると書いてあった。

「ジャニスの幼なじみね……」

向かい側に腰を下ろした叔母さんが考えるように腕を組んだ。

「ギャングと関係がありそうな幼なじみはいませんか?」

ヘーゼルの瞳がハッとしたようにこっちを見た。

「……デヴィッド」

叔母さんが呟いた。

「デヴィッド?」
「そう言えばジャニスが亡くなる一週間ぐらい前にデヴィッドに会ったって言っていたの」

胸の内側で鼓動が大きく鳴った。

デヴィッドに会えば事件の真相がわかるかもしれない。
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