大嫌いの先にあるもの
「黒須が旅立った日にBlue&Devilに来ましたよ。黒須の研究室に行かなかった事を謝りたいと言っていて、かなり気にしている様子でした」

「そういえばそうだったな」
春音を誘った事を思い出した。あの時は春音の友人の話を聞いていたら、堪らなく春音が愛しくなってしまった。

「大学講師という立場を使って、何をしているんですか?」
相沢の言葉に苦笑が浮かぶ。講師の立場を使って春音を追いかけ回している、
とはさすがに言えない。春音に夢中になっているのを知られるのが少々照れくさいから。

「真面目に学生の指導をしているだけだ」
「立花さんと研究室で2人きりになって、何かよからぬ事をしようとしていたのでは?」
さすが相沢だ。僕の考えをよく読む。しかし、それを認めるのは悔しい。

「昼間からそんな事する訳ないだろ。しかも大学だぞ」
僕の言葉に相沢が鼻で笑った気がした。

「黒須はダンプカーですからね」
「ダンプカーって何だ?」
「黒須の行動を的確に表現しました。突き進む時は物凄い勢いで突っ込んでいきますから心配しているんです。大学では自重して下さい。あなたは学生の手本となる講師なんですから」
相沢の小言が鬱陶しい。疲れている時は聞きたくない。

「そんなのわかっている。特に用事がなければもう切るぞ」
「一日一度は連絡を下さい。それから身の危険を感じたらすぐに手を引いて下さい。立花さんが泣きますよ」
慌てたような声がスマホ越しに響いた。切られる前にどうしても伝えたかったらしい。相沢の心配する気持ちが伝わってくる。

「春音を泣かすような事はしないよ」
相沢を安心させる為にそう言った。
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