大嫌いの先にあるもの
「春音、そんな事考えていたのか?」

呆れたように黒須が息をついた。

「だって、美香ちゃんはもう亡くなってるのに、黒須、大学の講義まで放り出してロスに行っちゃうんだもん」

黒須がいない大学が寂しかった。

「黒須の講義がある月・水・金が楽しみだったの。その楽しみを奪われたっていうか……」

言葉にしながら、随分と小さい事を言ってるなと感じた。黒須は大きな所を見ているのに。

「でもね、嬉しかったよ。私と堂々と交際したい為だって聞いて」

黒須の頬が珍しく赤くなる。

「なんでそれを知ってるんだ?」
「相沢さんが教えてくれたから」
「相沢か。口止めしたのに」

黒須が弱ったとばかりに頭をかいた。

「聞いちゃったもん」

えへへっと笑うと、黒須が私の頬をむにっと掴んだ。

「怪我人をいじめるのか?冷たい恋人だ」

そう言って、また黒須の唇が重なった。
今度は穏やかで、心が伝わってくるようなキス。

「美香の次だなんて思った事はないよ」

唇を離すと、言い聞かせるように黒須が言った。

「春音の事が大好きだよ」
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