大嫌いの先にあるもの
まず通されたのは仏間で、黒須と一緒に美香ちゃんに線香をあげ、手を合わせた。こうして黒須と一緒に線香をあげる事が信じられない。
以前だったらおばあちゃんが黒須を仏間に通すなんてありえない事だった。

黒須の話になると、いつもおばあちゃんは悔しそうだった。
あの男のせいで、美香は不幸になったんだよ。あの男と結婚しなければ不幸な事件に巻き込まれる事もなかったんだよ。

おばあちゃんが何度もそう言うのを聞いて来た。
美香ちゃんが亡くなってから立花家では黒須は悪いやつになった。

最愛の妻を亡くして、妻の家族からも恨まれるなんて、私だったら耐えられない。黒須は我慢強く、耐えて来たと思う。

「ごめんなさい」

思わず謝罪の言葉が漏れた。
黒須が不思議そうな顔をした。

「何が?」
「私たち、黒須に酷い事ばかり言って来たから」

黒須が気にしていないというように微笑んだ。

「もうそれは言いっこなしだよ。さあ、リビングに行こう」

立ち上がった黒須に続いて、廊下を挟んだ向こう側にあるリビングに行くと、紅茶のいい香りがした。

おばあちゃんが奥のキッチンでお茶の準備をしているのが見えた。
いつもだったら手伝いに行くけど、勘当されている身でそんな事をしていいかわからない。

どうしようか、もじもじしていると黒須に肩を叩かれた。

「手伝っておいで」

その言葉に背中を押されて、キッチンに足を向けた。
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