大嫌いの先にあるもの
今夜は疲れてるんだ。
余計な事は考えず、早く帰って寝よう。

更衣室を出て、裏口から出ると、ビルに挟まれた路地裏に出る。
壁に寄りかかるようにして、一人、煙草を吸ってる黒須がいた。
煙を吐き出す横顔が寂し気だった。

「帰りか?」

黙って反対方向に歩き出そうとした時、声がかかる。
ドキリとした。

こっちの気配に気づくとは思わなかった。

「帰りです」

黒須の方は見ずに答えた。
顔を見たくなかった。
見たらまた怒りが込みあがるし、悶々とするから。

「送って行く」

え?なんて言った?送る?

つい、黒須の方を見てしまう。

「家まで送るよ」

もう一度黒須がハッキリ言った。
とても優しい表情を浮かべている。

どうして、そんな顔をするの?

私はあなたを憎んでるのに。
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