大嫌いの先にあるもの
「君、質問してもいい?」

遠く見下ろしていた黒須が手を伸ばせば触れられるぐらい近くにいた。
口から心臓が飛び出るかと思った。
いきなり当てるなんて、酷い。
動揺させて楽しんでるんだ。やっぱり悪魔だ。

「君、起きてる?」

黙っていると、口の端を上げて、バカにしたような笑みを浮かべた。
腹が立つ。

「お、起きてます」

「では、今から話す選択肢を選んでください。

A絶対に五十万円をあげます。
Bコイントスで表が出たら百万円をあげます。裏が出たら何もあげません。

どちらを選びますか?」

そんなの絶対にAに決まってる。裏が出たら何ももらえないなんて損する。
でも、こんな当たり前の選択をしていいのかな。

「正直に答えていいですよ」

「じゃあ、A」

黒須が笑みを浮かべた。なんで笑われたかわからず、ムッとする。

「では、次の質問にも答えて下さい。

A絶対に五十万円を支払う。
Bコイントスで表が出たら百万円を支払う。裏が出たら支払わなくていい。

さて、どっち?」

これも決まってる。Bだ。絶対に五十万円を支払うなんて嫌だ。コイントスだったら払わなくていい可能性がある。

「Bです」

黒須が大きく頷いた。

「答えてくれてありがとう。では、皆さんにもお聞きします。最初の質問Aを選ぶ人は手をあげて下さい」

一斉に全員の手が上がった。みんなが同じ選択だった事にほっとする。

「では、二番目の質問Bを選ぶ人は?」

これも全員の手が挙がった。
だよね。フツーに考えたらそうなるよね。
一体この質問にはどんな意味があるの?

「ありがとう。皆さん、いい学生さんですね。実はですね。今のがプロスペクト理論なんです」

プロスペクト理論?
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