大嫌いの先にあるもの
美香ちゃんが亡くなってから、ずっとマイナスの感情の中にいる。
強盗に銃で撃たれて殺されるなんて、あまりにも(むご)い死に方をしたから、納得がいかない。

ジャズピアニストとしてこれからだった。
音楽会社と契約して美香ちゃんの名前でアルバムが出る事も決まっていた。
強盗はそんな美香ちゃんの未来を奪った。
頑張って掴んだチャンスをいきなり潰したんだ。

許せない。

強盗は捕まって刑務所に入ってるけど、それだけでは足りない。大切な美香ちゃんの死はそんなものでは償えない。

今でもそう思う。
やり場のない怒りがずっとお腹の奥に溜まってる。

そして――

黒須と結婚さえしなかったら、美香ちゃんはニューヨークに住む事もなかった。強盗に殺される事もなかった。だから、黒須にも強盗と同じ罪がある……そう思って来た。

だけど、本当にそうなんだろうか?
美香ちゃんは黒須と出会う前からニューヨークにいたし、音大を卒業した後もニューヨークに住み続けていたかもしれない。

私はその可能性を見なかった。なぜだろう?

「春音ちゃん、聞いてる?」
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