大嫌いの先にあるもの
向かい側に座る若菜が心配そうにこっちを見ていた。
いつものように若菜とゆかと三人で学食で日替わりランチを食べていた。今日は生姜焼きがメインだった。
「春音ちゃん、怖い顔してどうしたの?」
若菜に言われた。
「食事も進んでないし。春音ちゃんの好きな生姜焼きなのに」
二人の皿を見るともう終わっていた。
私のはほとんど箸をつけてない。
黒須の話が気になって、ずっと美香ちゃんの事を考えていた。
「ねえ、もしも大事な人が殺されて、犯人は捕まったけど、許せないって気持ちがあったら、大事な人の夫を嫌いになったりする?」
若菜とゆかが驚いたように目を見合わせる。
それから怪訝な表情を浮かべる。
「どうして大事な人の夫を嫌いになるの?」
ゆかがこっちを見る。
「それは……結婚したせいで殺されたかもしれないから」
「うーん」
ゆかかが考えるように腕を組んだ。
「身近な誰かに怒りをぶつけたくなる気持ちはわかるよ。でも、夫を恨まないな。だって結婚したって事は夫は大事な人の大事な人になるんでしょ?」
大事な人の大事な人……。
美香ちゃんの大事な人……。
「そうだね。夫を恨んだりしたら亡くなった人が悲しむよね。悪いのは犯人なんだからさ」
若菜の言葉が突き刺さる。
黒須に対して恨んでいた気持ちは美香ちゃんを悲しませるものだって初めて気づいた。
今までの態度を黒須に謝らなければ。
「私、行かなきゃ」
午後も黒須の講義が入ってる。
まだ大学にいるはず。