大嫌いの先にあるもの
「春音ちゃん、来た事あるの?」

ゆかがトイレに行くと若菜に聞かれた。

「え?」

「今、ゆかにお手洗いの場所を教えてたから。案内板とかないし、初めてじゃ答えられないと思って」

「うん。まあ」

「いつ来たの?」

「中学生の時」

若菜が意外そうにアイメイクをばっちりした目を見開いた。

「春音ちゃんって、意外と不良なんだ」

堅実さを求める私からはジャズバーに来るなんて確かに想像できないかもしれない。

「大人の店に誰と来たの?まさか中学の友だちと?」

興味を持ったのか、若菜が好奇心いっぱいの目を向けて来る。

「知り合いの大人」

言葉を濁した。誰と来たかなんて言えない。

「知り合いの大人って、援助交際の相手とか?」

「する訳ないでしょ」

「だよね。春音ちゃんは真面目だもんね」

若菜が口元に手をあてて楽しそうに笑った。

「でも、知り合いの大人ってどんな人?」

「なんで聞くの?」

「春音ちゃんが珍しく動揺してるから」

「動揺してないよ」

「してるよ。もしかして年の離れた恋人?」

「そんな訳ないでしょ!」

そう叫んだ時、誰かに肩を叩かれた。その人物を見て息が止まる。
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