大嫌いの先にあるもの
地下鉄の駅に着くと、若菜とゆかにラインで体調が悪くなったから帰ると伝えた。既読はつかなかった。黒須と楽しくお喋りでもしてるのかもしれない。

はあぁ……。

なんで黒須に会っちゃったんだろう。

ホームで電車を待ちながら、美香ちゃんのピアノを思い出した。

4歳でおばあちゃん家に預けられた私はいつも寂しくて泣いていた。

そんな時は美香ちゃんがピアノを弾いてくれた。

美香ちゃんが弾いてくれるのはジャズで、私の好きなアニメの曲もジャズ風にカッコよくアレンジして弾いてくれた。

自然と私も美香ちゃんに憧れてピアノを弾くようになった。

美香ちゃんはコードとか、リズムとか、アドリブの入れ方を教えてくれた。
私がメロディを弾いて、美香ちゃんが伴奏の方をカッコよく弾いてくれた。

美香ちゃんは母の最初の結婚で生まれた子だった。

そして母の二度目の結婚で私が生まれ、美香ちゃんと私は父違いの10歳差の姉妹だったけど、会った瞬間から私は美香ちゃんが大好きになった。

そんな美香ちゃんがニューヨークの音大に留学する事になった時は寂しくて仕方がなかった。でも、美香ちゃんが決めた事だから行くなとは言えなかった。

一年の留学で帰ってくるという美香ちゃんの言葉を信じて帰りを待っていた。

中一になったある日、美香ちゃんが黒須を連れて帰って来た。

――君が春音ちゃん?
――僕は黒須圭介です。よろしくね。

黒須はそう私に話しかけた。
チャコールグレーのスリーピーススーツが似合ってて、素敵な男の人だった。

二重の切れ長の優しい目に見つめられ、経験した事のない胸の高鳴りを感じた。

一目で私は彼を――

「せっかく来たのに、ライブは見ないのか?」

突然、隣から声がした。
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