大嫌いの先にあるもの
「もう妹じゃありません。あなたと私は何の関わりもないって前にも言ったでしょ」

黒須の言葉に反発した。
妹なんて言われたくない。

「美香が亡くなっても、春音は妹だよ」
「違います」
「違わないよ」

視線を上げると、真っすぐな瞳とぶつかった。
心が大きく揺れる。
こんな風にあたふたと動揺したくないのに、ペースを乱される。

誰か助けて。

そう思った時、障子戸が開いた。

「お待たせしました。ざるそばセットです」

紺色のエプロンを付けた、中年のおばさんが入って来た。

「待ってました」

黒須が店の人に向かって微笑んだ。
テーブルの上にざるそばと、つゆと、ワサビなどの薬味が載った盆が二つ置かれた。

「今日は可愛らしい方を連れていらっしゃるんですね」

店の人が言った。

「ええ、デートなんです」

耳が熱い。
なんでこの人はいつも余計な事ばかり言うのか。

「で、デートなんかじゃありません!」

思ったよりも大きな声が出た。
店の人が驚いたようにこっちを見る。

「えーと、その、ただのお供です」
「それは失礼しました。では、ごゆっくり」

障子戸がしまり、黒須と二人きりになる。
クックックッという笑い声が聞える。
顔を上げると、拳を口元にあてて、可笑しそうに黒須が笑っていた。
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