大嫌いの先にあるもの
相沢さんと一緒にホテルの外に出ると、正面玄関の所に一目で高級車とわかる黒いセダンが停まっている。

確か、あの車はロールスロイスではないのか?
ドラマとか映画とかでしか見た事がない。

滝本さんが一度はロールスロイスに乗って王子様とデートをしてみたいと言っていたけど……。

自分の身にこんな事が起こるとは思わなかった。
一緒に乗る人は王子様ではなく鉄仮面の相沢さんだけど。

「どうぞ」

後部座席のドアを相沢さんが開けてくれた。
お姫様待遇に緊張する。

「失礼します」

白い革張りのシートに腰を下ろした。
座り心地がとてもいい。さすが高級車。

相沢さんも隣に座り、運転手さんに向かって「お願いします」と口にした。
車が静かに発進する。

運転手付きのロールスロイスなんて本当にお姫様みたい。

「シャンパンはいかがですか?」

相沢さんに勧められて首を振った。

「いえ、車酔いしそうなのでやめておきます」

「わかりました」

「あの、この車って物凄い高いやつですよね」

「ロールスロイスファントムになります。六千万円ほどになりまが」

リムレス眼鏡のフレームを抑えながらサラッと言われた金額に緊張した。

「この車は黒須のなんですか?」

「そうですよ」

黒須ってやっぱりお金持ちなんだ。

「あの、これからどこに?」

「鎌倉です」

鎌倉……。
また思いもよらない場所だった。
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