大嫌いの先にあるもの
「黒須は鎌倉にいるんですか?」

「鎌倉でホームパーティーに招待されていまして、そのお供を立花さんに頼みたいそうです」

ホームパーティーと聞いて、少し安心した。
ここまでお姫様待遇でもてなされると、お城の舞踏会に連れて行かれるのかと思った。

「やっと今日の目的がわかりました」

「何も聞いてなかったんですか?」

「はい」

相沢さんが口の端を少し上げた。

「黒須らしいですね。あなたを驚かせて楽しんでるんでしょう」

その言い方は黒須と親しそうに思えた。

「黒須との付き合いは長いんですか?」

「ええ、彼とは同僚でしたから」

「同僚という事は相沢さんも為替ディーラーを?」

「そういう事になります」

相沢さんが苦い表情を浮かべた。

「私は黒須程有能ではなく、会社が傾きそうになる損を出してしまったんです。そこを黒須に救われ、今に至る訳です」

「さっきお姉ちゃんに会った事があると言っていましたが」

「黒須につき合ってお姉さまのライブを聴きに行った事が何度かあります。二人の恋を一番近くで見ていたのは私かもしれません」

リムレス眼鏡の奥の瞳が懐かしむように細くなった。

「黒須は女性にもてますが、ああ見えて奥手なんです。女性との付き合いも苦手で、よく相談に乗っていました」

意外な言葉だった。
黒須が奥手だなんて……。
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