大嫌いの先にあるもの
「それって黒須の恋愛相談に乗ってたって事ですか?」

相沢さんがリムレス眼鏡のフレームの真ん中を人差し指で抑えて微笑んだ。

「まあ、そういう事になりますね」

鉄仮面の相沢さんに相談って一番ない気がする。相沢さんが恋愛のアドバイスをする所なんて全く想像できない。

「私に恋愛相談なんてありえないですか?」

表情を読むように相沢さんが言った。
心の声が漏れてるのかな、私。

「いえ、そんな事は」

「表情が引きつってますよ」

クスクスと相沢さんが笑った。やっぱり笑うと優しい感じになる。

「本当に黒須って奥手なんですか?」

相沢さんが頷いた。

「見ててじれったくなるぐらいでしたよ。黒須とお姉さまは。お互いに好意がありながらもどうしたらいいかわからないって感じで」

そうかも。美香ちゃんはいつも片思いばかりだった。それで好きな人を見てるだけでいいとかってよく言ってたな。そんな美香ちゃんが交際三ヶ月のスピード結婚だったから、黒須を連れて来た時は家族全員で驚いた。

「二人の恋が始まるまではもどかしかったですが、始まってみればあっという間に結婚まで進んで、黒須もお姉さまも本当に幸せそうで。二人を見てるだけで微笑ましくなるというか、本当にいいカップルでした」

相沢さんが短く息をついた。

「ずっと二人を見ていたかった」

寂しそうに相沢さんがこっちを見た。

「立花さんはお姉さまの死について強盗に遭った以外の話を聞いていますか?」

「強盗に遭った以外の話?」

 うん?どういう事?
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