大嫌いの先にあるもの
黒須は私のいる10メートルぐらい先で赤いドレスの女性と話してる。そして、その周りに女性たちが集まってくる。あっという間に20人ぐらいの女性に黒須が囲まれた。大学でよく見る光景だ。ああなったら簡単には近づけない。

なんなの、もう。黒須の連れは私なのに。
もう怒った。私を待たせといて他の女性と話してるなんて酷い。

いつもだったらその集団に背を向けるけど、今日は黒須に向かって歩いた。
行く手を阻むように女性の壁がある。迷う事なくその中を突き進んだ。「きゃっ」とか、「いきなり何するの」とか、言われるけど気にしない。

「黒須!」

黒須の目の前に到達すると、そう声をかけた。
黒須が驚いたようにこっちを見た。

「黒須は私の連れなんで失礼します」

黒須の腕を掴んで、女性たちにそう宣言してから離れた。

「何よ、あの女」とかって聞こえたけど、黒須の腕を引っ張ってずんずん進んだ。だって今日は黒須は私の物だもん。黒須にペナルティをもらってここにいるんだもん。他の女になんか負けるもんか。

「春音、どこまで行くの?」

黒須の声がした。

「二人だけになれる所」

黒須が立ち止まった。

「うーん、二人だけになれる所か」

考えるように黒須が呟いた。

「奥の庭園まで行けば誰も来ないかもな」

「じゃあ、そこ行こう」

「お腹すいてない?」

「すいた」

「まずは腹ごしらえしてからにしよう」

黒須が私の手を握って、お料理があるコーナーに向かって歩き出した。
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