王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます
恥とトマトとパステーク
一瞬のことである。
ゴロゴロしている石やら小岩やらに、背中があたってしまう。
すぐにでも衝撃やってくることを覚悟した。
「おっと」
そのとき、彼が背に腕をまわして抱きとめてくれた。
彼は『だから注意しただろう』とか『どん臭いんだな』とか、そんな言葉を発することなかった。そんな類の表情を、美貌に浮かべることもなかった。
彼は、わたしを立たせてくれた。そして、わたしからすばやく離れて距離をおいた。
二度の注意がきいているのね。
それにしても恥ずかしい。
わたしってば、彼の前でどれだけ恥をかけばすむわけ?
「ほら、これ。今朝、もいで冷やしておいたんだ。とりあえず、トマトをどうぞ。パステークはすぐに切るよ」
差し出されたのは、大きな赤いトマト。見ると、沢に網の袋が入っている。その網袋の中には、トマトやパステークなどがいっぱい入っている。
沢の水で冷やしているわけね。
先程転んだのがバツが悪すぎて、無言のままトマトを受け取った。それから、一口かじってみた。
お、美味しい。美味しすぎる。
気がついたら、貪るようにして食べていた。でっ、あっという間になくなってしまった。
「これもどうぞ」
黒い縞模様の入った人の頭位の大きさのパステークを八分の一に切り、その一つを手渡してくれた。
わたしの国にはない食べ物である。小説の中でしか見たことがない。
赤い果肉が、みずみずしさを感じさせる。
木洩れ日がそのみずみずしさを強調している。
小説の中では赤い果肉の中に黒い種があって、ヒロインが口から種を「プッ」と飛ばしていた。
これには黒い種がないわね。
「それは、種無しなんだ。さあ、食べてみて」
彼は、わたしの心を読んだかのように説明してくれた。
一口かじってみた。「シャリッ」という小気味よい音とともに、口の中に甘い汁が広がる。
「甘くて美味しい……、ま、まあまあじゃない」
悪女を気取るのもラクじゃないわ。
つい口から素直な感想が出てしまい、慌てて悪女っぽく言い直した。
「気に入ってくれたのならいいんだけど。まだあるから、腹一杯食ってくれ。こんなところだけど、マナーなど必要ないからラクだろう?」
彼もパステークを食べはじめた。
だから、わたしも口を動かし続けた。
もちろん、食べる為にである。
ゴロゴロしている石やら小岩やらに、背中があたってしまう。
すぐにでも衝撃やってくることを覚悟した。
「おっと」
そのとき、彼が背に腕をまわして抱きとめてくれた。
彼は『だから注意しただろう』とか『どん臭いんだな』とか、そんな言葉を発することなかった。そんな類の表情を、美貌に浮かべることもなかった。
彼は、わたしを立たせてくれた。そして、わたしからすばやく離れて距離をおいた。
二度の注意がきいているのね。
それにしても恥ずかしい。
わたしってば、彼の前でどれだけ恥をかけばすむわけ?
「ほら、これ。今朝、もいで冷やしておいたんだ。とりあえず、トマトをどうぞ。パステークはすぐに切るよ」
差し出されたのは、大きな赤いトマト。見ると、沢に網の袋が入っている。その網袋の中には、トマトやパステークなどがいっぱい入っている。
沢の水で冷やしているわけね。
先程転んだのがバツが悪すぎて、無言のままトマトを受け取った。それから、一口かじってみた。
お、美味しい。美味しすぎる。
気がついたら、貪るようにして食べていた。でっ、あっという間になくなってしまった。
「これもどうぞ」
黒い縞模様の入った人の頭位の大きさのパステークを八分の一に切り、その一つを手渡してくれた。
わたしの国にはない食べ物である。小説の中でしか見たことがない。
赤い果肉が、みずみずしさを感じさせる。
木洩れ日がそのみずみずしさを強調している。
小説の中では赤い果肉の中に黒い種があって、ヒロインが口から種を「プッ」と飛ばしていた。
これには黒い種がないわね。
「それは、種無しなんだ。さあ、食べてみて」
彼は、わたしの心を読んだかのように説明してくれた。
一口かじってみた。「シャリッ」という小気味よい音とともに、口の中に甘い汁が広がる。
「甘くて美味しい……、ま、まあまあじゃない」
悪女を気取るのもラクじゃないわ。
つい口から素直な感想が出てしまい、慌てて悪女っぽく言い直した。
「気に入ってくれたのならいいんだけど。まだあるから、腹一杯食ってくれ。こんなところだけど、マナーなど必要ないからラクだろう?」
彼もパステークを食べはじめた。
だから、わたしも口を動かし続けた。
もちろん、食べる為にである。