王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます
箍は外れた
森にあるお気に入りの場所にやってきた。ひときわ大きな木があり、その枝葉から射し込む木漏れ日がとても気持ちがいい。
ズボンをはいているので多少不都合な姿勢であっても許せるでしょう。
木の幹に背中を預けて両足を投げだすと、本を読みはじめた。
自分でクッキーを焼いてきている。ほんとうなら、紅茶もほしいところよね。クッキーには、やっぱりミルクティーよね。ダージリンのミルクティーなんて最高だわ。でも、まさかティーセットを運ぶわけにはいかない。
まぁ紅茶のクッキーだし、そこはガマンよね。
贅沢なんて言っていられないし。
クッキーを頬張りながら本を開けたが、どうも集中することが出来ない。
さきほどのレリアたちの会話が気になっている。
彼女たちが話していたのは、わたしのことよね。いえ、完璧わたしのことだわ。
なぜ、わたしを捜しているの?いったいだれが?
って、問うまでもないわね。だって、下女のエリを知っているのはレイしかいない。
いったい、どういうこと?
そもそも、彼はだれなの?何者なの?
この日、めずらしく本を開けたまま文字を追うことは出来なかった。
レリアたち侍女やそれ以外の使用人たちのわたしに対する態度は、あいかわらずである。
だけど、わたしも負けやしない。
これまでいろんなところで耐え忍んできた鬱憤が、いまになって出てきたのかもしれない。
一度箍が外れてしまうと、あとは口から勝手に出てくる。
もちろん、相手の態度による。わたしに攻撃を、あるいはそれに近い態度を示したときだけ反撃する。
こちらから攻撃を仕掛けることはまずない。
残念ながら、彼女たちもわたしが傲慢さを発揮するとかわがままに振る舞ってみせるほどには相手をしてくれない。
傲慢さもわがままっぷりも、見せつけるには相手がいなければ見せようもない。
だから、わたしの悪女っぷりも中途半端なもので究極にはほど遠い。
せいぜい、巷に流れている「おとなしくって従順で気弱で言いなりになる」って感じの噂よりかは、ちょっぴり気が強い女程度だと思う。
その日の朝も、侍女長とレリアと言い争った。
恰好をどうにかしろ、という。つまり、まともな服を着ろというわけである。
「だったら、あなたたちが自腹でプレゼントしてちょだい。なにせわたしは「戦利品妻」だから、収入がまったくないのよ。当然、あなたたちの雇い主の王太子殿下からお小遣いをもらっているわけじゃないし。だから、あたらしい服を買うことが出来ないの。ほら、よくご覧なさい。それから、鼻を近づけてにおってちょうだい。衣服はちゃんと洗濯しているわ。やぶけたりほつれたりしたら、繕っているのよ。あなたたちにとやかく言われることはないわ」
この頃になると、鼻持ちならない女を演じるのもお手のものになっている。
自然な表情と言い回しで、彼女たちを撃退してやった。
彼女たちの主張は、ただの言いがかりや嫌がらせだもの。いちいちかまっていられないわ。
そんなこんなで、プリプリしながら図書室に行った。
借りていた本を元あった書棚に戻し、あらたに借りる本を物色しはじめた。
一番奥の通路の書棚で物色していたとき、図書室の扉が開く音がした。
どうやら、だれかが入って来たみたい。だけど、ここからではまったく見えない。
「それで?どうなっている?」
「暗殺に失敗してから、行方知れずでして」
どうやら、男性二人ね。
どちらも声をきいたことがあるような気がするし、ないような気もする。
ズボンをはいているので多少不都合な姿勢であっても許せるでしょう。
木の幹に背中を預けて両足を投げだすと、本を読みはじめた。
自分でクッキーを焼いてきている。ほんとうなら、紅茶もほしいところよね。クッキーには、やっぱりミルクティーよね。ダージリンのミルクティーなんて最高だわ。でも、まさかティーセットを運ぶわけにはいかない。
まぁ紅茶のクッキーだし、そこはガマンよね。
贅沢なんて言っていられないし。
クッキーを頬張りながら本を開けたが、どうも集中することが出来ない。
さきほどのレリアたちの会話が気になっている。
彼女たちが話していたのは、わたしのことよね。いえ、完璧わたしのことだわ。
なぜ、わたしを捜しているの?いったいだれが?
って、問うまでもないわね。だって、下女のエリを知っているのはレイしかいない。
いったい、どういうこと?
そもそも、彼はだれなの?何者なの?
この日、めずらしく本を開けたまま文字を追うことは出来なかった。
レリアたち侍女やそれ以外の使用人たちのわたしに対する態度は、あいかわらずである。
だけど、わたしも負けやしない。
これまでいろんなところで耐え忍んできた鬱憤が、いまになって出てきたのかもしれない。
一度箍が外れてしまうと、あとは口から勝手に出てくる。
もちろん、相手の態度による。わたしに攻撃を、あるいはそれに近い態度を示したときだけ反撃する。
こちらから攻撃を仕掛けることはまずない。
残念ながら、彼女たちもわたしが傲慢さを発揮するとかわがままに振る舞ってみせるほどには相手をしてくれない。
傲慢さもわがままっぷりも、見せつけるには相手がいなければ見せようもない。
だから、わたしの悪女っぷりも中途半端なもので究極にはほど遠い。
せいぜい、巷に流れている「おとなしくって従順で気弱で言いなりになる」って感じの噂よりかは、ちょっぴり気が強い女程度だと思う。
その日の朝も、侍女長とレリアと言い争った。
恰好をどうにかしろ、という。つまり、まともな服を着ろというわけである。
「だったら、あなたたちが自腹でプレゼントしてちょだい。なにせわたしは「戦利品妻」だから、収入がまったくないのよ。当然、あなたたちの雇い主の王太子殿下からお小遣いをもらっているわけじゃないし。だから、あたらしい服を買うことが出来ないの。ほら、よくご覧なさい。それから、鼻を近づけてにおってちょうだい。衣服はちゃんと洗濯しているわ。やぶけたりほつれたりしたら、繕っているのよ。あなたたちにとやかく言われることはないわ」
この頃になると、鼻持ちならない女を演じるのもお手のものになっている。
自然な表情と言い回しで、彼女たちを撃退してやった。
彼女たちの主張は、ただの言いがかりや嫌がらせだもの。いちいちかまっていられないわ。
そんなこんなで、プリプリしながら図書室に行った。
借りていた本を元あった書棚に戻し、あらたに借りる本を物色しはじめた。
一番奥の通路の書棚で物色していたとき、図書室の扉が開く音がした。
どうやら、だれかが入って来たみたい。だけど、ここからではまったく見えない。
「それで?どうなっている?」
「暗殺に失敗してから、行方知れずでして」
どうやら、男性二人ね。
どちらも声をきいたことがあるような気がするし、ないような気もする。