王太子殿下、「『戦利品』のおまえは妻として愛する価値はない」と宣言されるのですね。承知しました。わたしも今後の態度を改めさせていただきます
レイからの手紙
この「カサカサ」っていう音って、紙の音?
音の出所を追ってみた。
すると、すぐ足元からきこえてきていることに気がついた。
眼前の樫材の大扉の隙間に、紙片がはさまっている。
すぐに紙片の端をつかみ、ゆっくり引き抜いてみた。破かないよう、やさしく。
手紙だった。きちんと封筒に入っていて、封がされている。
レイからわたし宛だと確信した。
その根拠はわからない。
焦る必要なんてどこにもないのに、なぜか慌てふためいて封を開けようとしている。が、きっちり封がされている。
ペーパーナイフがあれば簡単に開けられるのに……。
ないものねだりというものね。
中身を破いてしまわないよう、慎重に封を開けていく。焦れば焦るほど、思うように切ることが出来ない。ともすれば、ビリっと派手な音を立ててあらぬ方向へ破けてしまう。
それでもどうにかこうにか封を切ることが出来た。
もどかしい思いで封筒から紙片を取り出した。建物から離れると、まばゆいばかりの月光が文字を照らしだしてくれる。
自然の灯りで充分よね。
見まわすと、おあつらえ向きに畑の横に金属製の椅子が置いてある。
そこまで駆けてゆき、腰をかけた。
あらためて手紙に視線を落とそうとして、視界の隅に赤い塊を認めた。
トマトよ、トマト。
でも、いまは見ないでおきましょう。
森の中を歩きまわったので、お腹がすいてきている。
何を言っているの?まずは、手紙よ手紙。
今度こそ、手紙に視線を落とした。
「親愛なるエリ」
前回のメモ同様、共通語で書かれている。
彼の文字はとってもやさしく、しかも顔同様きれいである。
「まず、きみのすぐ横にトマトがあるだろう?誘惑に負けてくれていい。葛藤しながらよりも、トマトを食ってから読んでくれた方が集中出来るはずだ。さぁエリ、トマトをつかんでもぎ、貪り食ってくれ」
その冒頭に声を上げて笑ってしまった。
レイとはたった一度しか会っていないのに、しかも多くの時間を共有したわけでもないのに、彼はずいぶんとわたしのことをわかっているわ。
ありがたく、彼の助言に従うことにした。
月明かりの下、燃えるような真っ赤なトマトをつかんでもぎ取り、王太子に買ってもらって自分で手直しをしたシャツにこすりつけ、おもいっきりかじりついた。
ここは寒暖の差があまりないし、雨が降ることもない。だから、トマトに夜露がつくようなことはあまりないのかしら?
トマトを堪能しつつ、ふとかんがえてしまう。
夜露によって傷がついたり割れたりすることがある。というようなことを、小説か探検記かで読んだ記憶がある。
一個食べると、お腹も心も満たされた。
そこでやっと、手紙の続きに戻ることにした。
「トマトはどうだったかい?沢の水で冷やしていなくて悪かったけど、もぎ立てもうまいだろう?」
「ええ、そうね。とっても美味しかったわ」
声に出していた。
彼がいるわけじゃないから、悪女ぶる必要もない。
いくらでも本音を言える。
「さて、と。この手紙を読んでくれているということは、わざわざおれを尋ねてくれたということだよね?おっと、訂正。きみにすれば、おれがお節介で置いておいたバスケットを返しに来たってことだよね?」
「ええ、そうよ。あなたに会いに来たんじゃないわ。バスケットを返しに来たのよ」
笑いながら答えていた。
音の出所を追ってみた。
すると、すぐ足元からきこえてきていることに気がついた。
眼前の樫材の大扉の隙間に、紙片がはさまっている。
すぐに紙片の端をつかみ、ゆっくり引き抜いてみた。破かないよう、やさしく。
手紙だった。きちんと封筒に入っていて、封がされている。
レイからわたし宛だと確信した。
その根拠はわからない。
焦る必要なんてどこにもないのに、なぜか慌てふためいて封を開けようとしている。が、きっちり封がされている。
ペーパーナイフがあれば簡単に開けられるのに……。
ないものねだりというものね。
中身を破いてしまわないよう、慎重に封を開けていく。焦れば焦るほど、思うように切ることが出来ない。ともすれば、ビリっと派手な音を立ててあらぬ方向へ破けてしまう。
それでもどうにかこうにか封を切ることが出来た。
もどかしい思いで封筒から紙片を取り出した。建物から離れると、まばゆいばかりの月光が文字を照らしだしてくれる。
自然の灯りで充分よね。
見まわすと、おあつらえ向きに畑の横に金属製の椅子が置いてある。
そこまで駆けてゆき、腰をかけた。
あらためて手紙に視線を落とそうとして、視界の隅に赤い塊を認めた。
トマトよ、トマト。
でも、いまは見ないでおきましょう。
森の中を歩きまわったので、お腹がすいてきている。
何を言っているの?まずは、手紙よ手紙。
今度こそ、手紙に視線を落とした。
「親愛なるエリ」
前回のメモ同様、共通語で書かれている。
彼の文字はとってもやさしく、しかも顔同様きれいである。
「まず、きみのすぐ横にトマトがあるだろう?誘惑に負けてくれていい。葛藤しながらよりも、トマトを食ってから読んでくれた方が集中出来るはずだ。さぁエリ、トマトをつかんでもぎ、貪り食ってくれ」
その冒頭に声を上げて笑ってしまった。
レイとはたった一度しか会っていないのに、しかも多くの時間を共有したわけでもないのに、彼はずいぶんとわたしのことをわかっているわ。
ありがたく、彼の助言に従うことにした。
月明かりの下、燃えるような真っ赤なトマトをつかんでもぎ取り、王太子に買ってもらって自分で手直しをしたシャツにこすりつけ、おもいっきりかじりついた。
ここは寒暖の差があまりないし、雨が降ることもない。だから、トマトに夜露がつくようなことはあまりないのかしら?
トマトを堪能しつつ、ふとかんがえてしまう。
夜露によって傷がついたり割れたりすることがある。というようなことを、小説か探検記かで読んだ記憶がある。
一個食べると、お腹も心も満たされた。
そこでやっと、手紙の続きに戻ることにした。
「トマトはどうだったかい?沢の水で冷やしていなくて悪かったけど、もぎ立てもうまいだろう?」
「ええ、そうね。とっても美味しかったわ」
声に出していた。
彼がいるわけじゃないから、悪女ぶる必要もない。
いくらでも本音を言える。
「さて、と。この手紙を読んでくれているということは、わざわざおれを尋ねてくれたということだよね?おっと、訂正。きみにすれば、おれがお節介で置いておいたバスケットを返しに来たってことだよね?」
「ええ、そうよ。あなたに会いに来たんじゃないわ。バスケットを返しに来たのよ」
笑いながら答えていた。